市川清一は太平洋戦争末期のある日を回想していた。
彼は会社から自宅へ帰るところだった。
襲い来るB29の空襲を受けながら、恐怖と共に燃えさかる焼夷弾に美しさすら感じていた。
そんな中、ある小さな防空壕へ飛び込んだ。暗がりを懐中電灯で奥を照らすと、女がいた。
清一はそばに来た女と話しながら、水をもらったりした。女は驚くほどに美しい女だった。
清一は空襲の中、女と壕の中で激しく愛し合った。
だが、翌朝になると女の姿は消えていた。夢だったのだろうか。
女になんとしても再び会いたいと願った彼は、その日同じ防空壕に隠れていたらしい、50歳過ぎの宮園とみという老婆に出会うが、「そんな女は知らない」と言われる。
あの女は幻だったのか......。結局清一は女の正体を知ることは無かった。
しかし......
江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)
日本の推理小説家。1894年10月21日生まれ、三重県生まれ。筆名は、19世紀の米国の小説家エドガー・アラン・ポーに由来する。数々の職業遍歴を経て作家デビューを果たす。本格的な推理小説と並行して『怪人二十面相』、『少年探偵団』などの少年向けの推理小説なども多数手がける。代表作は『人間椅子』、『黒蜥蜴』、『陰獣』など。1954年には乱歩の寄付を基金として、後進の推理小説作家育成のための「江戸川乱歩賞」が創設された。